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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6797号 判決

原告 木下昌治こと李三東

右訴訟代理人弁護士 広瀬信良

被告 国

右代表者法務大臣 小林武治

右指定代理人 下村浩蔵

〈ほか二名〉

主文

被告は原告に対し金六万〇一三六円並びにこれに対する昭和四三年一月二一日より右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、原告において金二万円を担保に供するときは、仮に執行することができる。但し、被告において金四万円を担保に供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

被告は原告に対し金二〇万三三〇二円並びにこれに対する昭和四三年一月二一日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の裁判を求める。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1、原告は昭和四二年七月一〇日午後一〇時頃大阪市生野区林寺町四丁目八番地先国道二五号線桑津北口交差点を自転車に乗り、右国道左側を東に向って進行し、前記交差点を左折しようとしたところ、右国道上の別紙図面×点に直径五〇センチ、深さ四〇センチの穴が空いていたため、同箇所に自転車の前輪が落ち込んで路上に転倒し、これにより加療一ヶ月を要する右胸部打撲傷の傷害を負った。

2、被告の責任

(一)、事故現場は、道路法一三条一項に所謂国道の指定区間内にあり、被告国が管理するものである。

(二)、原告の落ち込んだ穴は、車輛の通過による自然損傷によって生じたもので、本件事故当時における同ヶ所の損傷程度は、前記のとおりで、自転車などが落ち込んだときは、そのまま前方に投出されるか或はハンドル操作の自由を失って横転するほかはない程度にまで破損が進んでおり、同個所の交差点内の位置から言っても、極めて危険な道路状況であった。ところが、被告は右破損個所の修理を怠った上、附近に標識を掲げて通行者の注意を促すなどの危険防止の措置を採ることもなく、右危険な状態のまま放置し、道路管理者としての義務を怠ったものである。よって、本件事故は国家賠償法二条による被告の道路管理の瑕疵に基因するものと云うべく、被告は本件事故による原告の損害を賠償すべき義務がある。

3、原告は本件事故により、次のとおり合計金二〇万三三〇二円の損害を蒙った。

(一)、逸失利益

原告は、事故当時布施ネジ製作所(経営者島田時泰)に旋盤工として勤務し(日給制)、事故前三ヶ月の平均日収は金一五一一円であった。

(イ) 原告は、本件受傷により昭和四二年七月一一日から同年八月六日まで就労不能であった。よって、この間の賃金三万四七五三円を喪失した。

(ロ) 原告は同年八月七日から復職したが、本件受傷のため従前どおりに働くことができず、同日から同年一〇月末日までの七五日間の収入は金九万七七七六円に止まった。よって、これと従前どおり働きえた場合の右期間内における得べかりし賃金一一万三三二五円との差額金一万五五四九円の得べかりし賃金を喪失した。

(ハ) 慰藉料

被告の家族は、妻とみ子の他に、子供六名をかかえた大家族であるが、長女(当時一九才)及び次女(当時一八才)の勤めによる若干の収入のほかは、すべて原告の収入によって生計をたてているところ、本件事故による原告の労働不能のため、たちまち雇主から十数万円の借財を負うなど生活に追われ、再就労後も負傷全治を待たず、生活上止むなく働きに出ているのである。また再就労後も疲れ易いため従前どおり働くことができず、前記(ロ)記載のような収入減を来たしている。なお原告の年令から考えても、今後どの程度健康状態が回復しうるか不安である。そこで本件受傷による慰藉料として金一〇万円を請求する。

(ニ) さらに、弁護士費用として金五万三〇〇〇円を支払うべき債務を負担するので、右金員も併せて請求する。

4、よって、原告は被告に対し、右損害金合計金二〇万三三〇二円と、これに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一月二一日から右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、(被告の答弁並びに抗弁)

1、原告の請求原因事実中、第1項については被告の管理する原告主張の国道上に穴のあったことは認める。但し、穴の大きさは縦五〇センチ、横四〇センチ、深さ一四センチであった。その余は不知

同第2項の(一)は認める。(二)は争う。

同第三項は争う。

2、仮に、原告が本件の穴にはまり込み、その結果受傷したとしても、以下に述べるとおり、被告は損害賠償責任を負うものではない。

(一)、本件の穴の大きさは、前記主張のとおりの大きさの鍋底形の軽微なもので、この程度の穴があったとしても道路管理に瑕疵があったとはいえない。

(二)、本件交差点附近の国道は、昭和三九年よりアスファルトコンクリートによって完全舗装されていたものである。しかるに、昭和四二年七月七日から九日にかけて集中豪雨があり、右降雨のため、北大阪維持出張所管内の国道の各所に穴があいた。本件の穴もその一つであって、右降雨により道路のアスファルトの部分が崩れた結果できたものである。しかして、同出張所管内においては、右降雨によって国道一号線及び二号線の一部に冠水した個所も生じたので、同出張所は穴があいた路面の応急修理及び冠水地域の清掃にも全力を挙げて行ったが、管轄区域が広いため七月一三日にいたって漸く右作業を完了することができたのである。このような事情であるから七月一〇日午後一〇時といえば本件の穴ができた直後であったので、本件の穴を修理をしたり、標識を設置したりすることは、管理の限界を超えるものであった。従って、同出張所がかかる措置をとっていなかったとしても、止むをえなかったというべきである。この点から見ても、道路の管理に瑕疵はなかった。

3、仮に、道路の管理に瑕疵があったとしても、原告の受傷は右の瑕疵に起因するものではなく、原告自身の過失に起因するものである。

本件交差点の北西角から大国町方面に向って四メートルの地点と南東角から杭全町方面に向って六・六メートルの地点に直下の明るさ六・四六ルックス(新聞が読める程度の明るさ)の街路灯がそれぞれ一基ずつ設置されており、また本件交差点の北東角と南西角には信号機がそれぞれ一基ずつ設置されていた。従って、本件交差点附近は相当明るかったし、そこを左折しようとする者は、信号に従い(道路交通法四条二項)かつ徐行しなければならないから、法令を遵守する限り、本件の穴を容易に発見しえたはずである。そうすれば、本件穴を避けえたし、避けえなかったとしても、本件穴は軽微なものであったから、それにはまり込んでも転倒して受傷することはなかったであろう。しかるに、原告が右の穴に落ちて転倒受傷したというのであれば、それはひとえに原告自身の過失、即ち前方不注視、並びに信号不遵守、徐行義務違反に起因するものであって、道路管理の瑕疵に起因するものではないといわねばならない。従って被告はこの点の責任は負わない。

4、仮に、道路の管理に瑕疵があり、被告が損害賠償責任を負うものとしても、右に述べたとおり、原告が受傷するについては、原告自身にも大きな過失があったから、損害賠償額は右過失によって相殺されるべきである。

三、(原告の被告の抗弁に対する主張)

いずれも否認する。

第三、(証拠関係)≪省略≫

理由

第一、(一) 原告主張の国道二五号線は、被告が管理していること並びに同国道上の原告主張の個所(別紙図面の×印)に、その主張の期日に穴(以下本件穴と称する)があいていたことは当事者間に争いがない。

(二) ≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四二年七月一〇日午後一〇時頃友人成沢竹雄宅からの帰り道、同人と同道してそれぞれ自転車に乗って、国道二五号線を西から東に向って走り、大阪市生野区林寺町四丁目八番地先の桑津北口交差点に差しかかり、原告は右成沢の自転車の右後方約一米のあたりを左折しようとしたところ、原告の乗っていた自転車の前輪が、本件穴に落込み、同人はハンドルを取られて、その場に転倒したことは明らかであり、右認定に反する証拠はない。

(三) (本件穴の状況)

本件穴の位置は、前記のとおり当事者間に争いのないところであるが、その大きさについて、原告は直径五〇センチ、深さ四〇センチと主張し、この点に関し、≪証拠省略≫によると右主張に沿うような陳述があるけれども、いずれも単に感じとして述べられているに過ぎず、特に穴の大きさを検尺したり、正確に観察した結果に基くものではないし、且後記認定の事実にも反するのでこの点についてはたやすく措信し得ない。

しかしながら≪証拠省略≫によると、本件事故後の昭和四二年七月二〇日、既に修理された穴を実況検分した結果アスファルトの老朽度、色具合を判定して埋められたアスファルトを掘り起したところ、深さについてはコンクリート岩盤のあるところまでしか掘れず、表面から右岩盤までは一四センチであったこと、また縦は四〇センチ、横は三五センチあって、穴の状態は鋭角的なものではなく、通常、アスファルト舗装はアスファルトを薄く層を積んで固めるので、階段状をなして穴があき、すり鉢状を呈したものであったことが認められ、前記のほか右認定に反する証拠はない。そして右認定の程度の穴の状態からすれば、完全舗装のアスファルト道路としては、車輛の通行について危険な状態に達しているものと考えられるので、道路の瑕疵と断ぜざるを得ない。

(四) (原告の傷害の程度並びに得べかりし利益の喪失)

≪証拠省略≫によれば、前記転倒に際し、原告はハンドルを取られて胸部と腹部をハンドルに打って、一米位前方にうつ伏せに倒れ、苦痛のために息もできず、約三〇分位その場にじっとしていたこと、翌一一日生野病院に行って診察を受け、レントゲンを二度とった結果、右胸部打撲症、約四週間の加療を要する旨の診断を受けたことは明白で、右認定に反する証拠はない。

なお、≪証拠省略≫によると、事故当時原告は東大阪市上小坂六八五番地島田時泰経営の布施ネジ製作所に勤務しており、昭和四二年七月より同年九月までの出勤状況は、別紙(二)のとおりであって、それによると、昭和四二年七月一一日より同年八月五日までと同月二二日より同月二六日まで欠勤しており、右の欠勤は本件事故による身体の故障によるものであること、本件事故前三ヶ月間及び本件事故発生の月以降四ヶ月の各給与支給状況は、別紙(三)記載のとおりであることがいずれも明らかであって、右認定に反する証拠はない。

そこで、右認定の事実からすると、原告の傷害の程度は右胸部打撲傷と診断されたのであるから、レントゲン結果からも骨折或は骨にひびが入った等の異状は認められないこと、原告は昭和四二年七、八月の欠勤分については、本件事故のための身体不調によるものであると述べているが、それ以降については胸部が痛む時があるというのみで、特にそのための欠勤であるか否かについては陳述していないこと、前記の程度の傷害の場合、原告が勤務する程度の労働内容からすれば常識的に見ても約二ヶ月位たてば仕事に影響ない位に身体の故障が治癒し得られ、従って同年九月以降の稼働状況は本件事故との間には因果関係があるとは考えられないこと、以上の事実を推認することができる。そうすると、前記認定の別紙(二)の事故発生月より前三ヶ月の残業手当、皆勤手当を含め、保険料等を差引いた支給額の平均は一ヶ月金三万九七二三円である。(残業手当については、昭和四二年七、八月は残業の日がいずれも一日で、事故月以前の三ヶ月に比較するとはるかに少ない点から、本件事故との間に因果関係が認められること、また皆勤手当は、事故月において事故発生前既に二日欠勤しているので、同月については本件事故に関係なく支給されないものであることは明らかで、その点疑いが残らないわけではないが、翌八月には、本件事故が発生しなかったならば、皆勤の可能性があり、しかも同年五、六月はいずれも皆勤手当を支給されている点から考えても、因果関係存在の可能性が高いものということができる。)そして、同年七月は月額金八八三〇円、翌八月は金一万八六三〇円がそれぞれ支給されているので、右平均月額との差の合計額は金五万一九八六円となる。ところで原告は、この点についての損害額は金五万〇三〇二円である旨主張しているので、右金額の範囲内においてこれを認め、右金額が原告の得べかりし利益の喪失の損害であるということができる。

第二  (被告の不可抗力の抗弁について)

被告は、本件事故のあった道路は完全舗装がほどこされていたが、昭和四二年七月七日から九日にかけて集中豪雨があり、北大阪維持出張所管内の国道の各所に穴があいたため、同出張所は路面の応急修理及び冠水地域の清掃、修理を全力を挙げて行ったが、管轄区域が広いため手が廻らず、しかも、本件事故は、本件の穴ができた直後に起きたため、穴の修理、標識の設置等の措置は、管理の限界を超えたもので不可能であり、従って、国家賠償法二条に該当する道路管理に瑕疵はないと主張するので判断するに、同条にいうところの瑕疵とは、客観的な基準に照らして営造物が通常有すべき性状や設備を具備していないこと、即ち、その安全性に欠かんの存することを指し、瑕疵の存する限り、その生じた原因が、自然力によるとまた人為的であるとを問わないと解すべきところ、≪証拠省略≫並びに証人林一道の証言(後記措信しない部分は除く)によれば、昭和四二年七月七日に二八ミリ、同月八日に六六・八ミリ、同月九日に八三・三ミリの集中豪雨があり、そのため北大阪維持出張所管内の道路が冠水して道路の各所の破損が生じたことは明らかであって、そのため翌一〇日には右道路の修理等に右所員は相当忙繁を極めたであろうことは、推測するに難くないところである。しかしながら、右証人の証言によると、道路の破損、修理状況等を記載する前記出張所のパトロール日誌には、直径二〇センチ程度の穴から記載することになっているが、右パトロール日誌の事故発生当日の頃には、本件の穴は記載されていないから、同日のパトロール時には右の穴は存在せず、その後に生じたものと判断した旨の陳述があるけれども、一方本件事故の翌々日の同月一二日になって大阪市土木局東南工営所生野出張所の大音主任からの電話連絡により本件事故の報告を受けて始めて本件の穴の存在を知るようになった旨の供述もある。そこで本件穴の大きさが前記のとおりで発見されていれば当然右日誌に記載されるべきものであるのに右日誌には記載されていないところからすれば、同月一〇日にパトロールした時に発見していないのみならず、同月一二日になってもまだ発見していなかったのであるから、右一〇日に穴が不存在だから発見できなかったのではなく、存在したけれども見落したとも考えられなくはないのである。従って、その点の右証人の証言はたやすく措信することはできない。そして右一〇日の天気については必ずしも明らかではないけれども、パトロール等して道路の修理等もなされていた状況から判断すると、一応雨があがって冠水状態は去ったと推測し得るのであって、右の状況であるならば、本件穴も当然発見し得たはずであるし、完全修理が不可能であったとしても、事故を防止し得る何らかの措置、例えば標識の設置或は正式な標識でなくとも、これに代る一般通行車輛等に危険を認識せしめ得る程度の方法はとり得たはずであり、管理者としては、当然それをなすべき責務があるものと考えるのが相当である。従って、被告の右不可抗力の主張は採用しない。

第三  (被告の因果関係なしとの主張並びに過失相殺の抗弁について)

一、(1) 被告は、道路の管理に瑕疵があったとしても、本件交差点附近に街路灯があり、新聞が読める位明るかったし、また同交差点には信号機があり、原告は右信号遵守義務に違反し、且左折に際して徐行義務にも違反したから、本件受傷はひとえに原告自身の過失のみに基くもので、道路の管理の瑕疵に基因するものではない旨。

(2) さらに、仮に被告が損害賠償責任を負うとしても、原告の受傷については、原告に右(1)に述べたような過失があったから、損害賠償額は右過失によって相殺されるべきである旨、

各主張する。

二、そこで右の点について判断するに、

(1)  ≪証拠省略≫によると、本件の穴から約五・三メートル西方に街路灯が一基あって、本件穴の附近の照度は六・四八ルックスであったこと、本件穴の南東方面(本件交差点の右街路灯のある角から対角線にあたる松本商店の角から六・六〇メートル東方)にも街路灯が一基あり、いずれも事故当夜は点灯していたこと、右事故の起きた時間には、他の店は閉っていたが、右松本商店(タバコ販売店)は店を開いていたと思われること、本件交差点附近の自動車の交通量は、その頃もややひんぱんであったこと等がいずれも認められ(る。)≪証拠判断省略≫以上の事実からすれば、本件穴の附近は、右街路灯、商店の明り並びに通行車の前照灯によって、自転車に乗っていても穴の存在を確認することができたものと推認することができる。しかも、≪証拠省略≫によると、原告の乗っていた自転車には発電式の前照灯がついていたことが認められるから、原告としては右のような事情からすれば、当然右穴を発見し、これを避けて通行することができたはずである。ところが、原告はこれに気付かずに穴に落ちたのであるから、それは原告の不注意の結果であるというべきである。

(2)  しかしながら、右のような原告の不注意は、原告の傷害の原因の全べてであるとはいえないのであって、前記認定のような道路における被告の管理の瑕疵がなかったならば、原告は穴に落ちることもなかったであろう。従って被告においてこの点の責任を全く免れることはできないものというべきである。

右のとおりであるから、原告の道路における管理の瑕疵と原告の右のような不注意とは、いずれも原告の転倒による受傷に対しては競合して要因となったものであり、これらの経過を勘案すれば、被告の分担すべき責任の割合は二分の一とするのが相当であると思慮する。そうすると、原告の得べかりし利益の損害は金五万一九八六円ということになるのであるが、原告は右損害として金五万〇三〇二円を主張するので、右の範囲内の二分の一の金二万五一三六円が、被告において負担すべき金額ということになる。

(3)  (被告の信号無視並びに徐行義務違反の主張について)

被告が主張するように、仮に原告に信号無視或は徐行義務違反の事実があったと仮定した場合に、原告が信号に従って一旦停止し、また左折に際して徐行していたとしたならば、場合によっては、本件穴を発見して被害を避け得たか、或は発見しないまでも、再度発進または徐行による低速のために、穴に落ちても、被害を最少限度にくいとめ得たかもしれないという考え方は、一見筋が通っているかに思える。しかし本来信号機の設置したり或は交差点左折の徐行義務を課することは、あくまでも交差点における通行人或は対行車との関係での安全を守る趣旨であって、道路上の穴や危険物等を発見するために設けられたものではない。そうだとすれば、前記のような効果が仮にあったとしても、それは法の予定しない偶然の結果であって、右の義務違反と本件のような事故との間には何らのかかわりもなく、原告に右のような義務違反があったとしても、被告は道路管理瑕疵の責任を免れ或は軽減されるものではないし、また原告も本件事故についての不注意を加重される筋合のものではない。従って被告の右主張は、原告に義務違反等の事実の存否についての判断をなすまでもなく、これを採用しない。

三、(慰藉料)

原告が本件事故によって受傷し、その傷害の程度並びに苦痛の情況、原告の職業、給与の状況(この点から原告の生活状態が推認できる)並びに原告の本件における不注意等については、いずれも前記認定のとおりである。さらに≪証拠省略≫によれば、本件事故について、原告が本件訴訟を提起する必要から、事故後二〇日位過ぎて警察に事故証明を貰いに行ったところ、反って信号無視の疑いありとして注意され、原告が一人で勝手に倒れたものである旨の供述調書をとられて被疑者あつかいをされたこと、原告の家族は現在内妻松本とみ子四四才、長女松本登代子二一才、次女松本昌子二〇才、長男松本政明一六才、次男松本政一一四才、三男松本政信一〇才で、(但し長女及び次女については現在は勤めに出ていることは原告の自認するところである。)であることが認定でき、右認定に反する証拠はない。そこで以上の各事実を綜合すると原告の慰藉料は金二万円が相当であると認める。

四、(弁護士費用について)

以上のとおり、原告は被告に対して金四万五一三六円の損害賠償請求権を有するものというべきところ、被告がこれを任意に弁済しないこと、その結果、原告は自己の権利擁護のため本件訴の提起を余儀なくされ、原告は大阪弁護士会所属広瀬信良に本訴の提起とその追行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるので、本件の事案の難易、前記認定の請求認容額その他本件に現われた事情を勘案すると、原告請求の弁護士費用の内金一万五〇〇〇円が本件事故に基く原告の損害として相当であると認める。

五、(結論)

以上のとおりであるから、被告に対する原告の本訴請求は金六万〇一三六円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること本件記録上明らかな昭和四三年一月二一日から右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項、三項を各適用し、よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官 安間喜夫 小林登美子)

〈以下省略〉

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